自分の老後のことについて不安をかかえ、今から準備していく人が増えてきています。
しかし近年、自分の老後のことよりも大きな問題になっていることがあります。
それは「親の介護」です。
高齢化社会になり、長生きをする人が増えました。その一方で、病気を患い、寝たきりになる人も増えてきています。
そして同時に、親の介護をするために仕事をやめる、いわゆる「介護離職」をせざるを得ない人が増えてきています。
親を大切に思い、仕事を辞めてまで介護をするというその気持ちには、本当に頭が下がる思いがします。
しかし、そんなやさしい気持ちが、かえって自分を苦しめ、つらい状況に陥ってしまっているという面も否定できません。
ここでは、介護離職について、その問題点やメリット・デメリット、後悔しないためにやるべき対策について紹介します。
介護離職の問題について
介護が必要な年代は
現在の日本は、世界の中でも類を見ないほどの超高齢化社会となりました。
厚生労働省の「介護給付費等実態統計」によると、年代別の人口に占める要介護認定者の割合が、「70歳~74歳」で5.8%で、そこから年代が下がるにつれて割合も少なくなってきています。
しかし反対に、後期高齢者となる「75歳~79歳」では12.7%、「80~84歳」では26.4%、「85歳以上」で59.8%となっています。
75歳を過ぎたあたりから、要介護認定者の割合は急激に加速していっているのです。
親の介護、治療にいくら必要か?
そこで気になるのが、病気になったり介護が必要になったりしたときにかかる費用です。
厚生労働省と慶應義塾大学の研究によると、親が認知症を発症したとき……
- 通院治療の費用…月39,600円程度、年475,200円程度
- 入院の場合……月344,300円程度、年4,131,600円程度
- 薬代……月数千円程度
- その他おむつ代、クリーニング代、個室料金など
これらのような費用がかかってくるといわれています。
その他にも、介護保険サービスを利用する場合……
- 「要支援1」日常生活は可能だが支援が必要……月5,003円程度
- 「要介護1」歩行緒が不安定で部分的な介助が必要……月16,692円程度
- 「要介護3」排泄、入浴、着替えに介護が必要……月26,931円程度
- グループホームに入居……月150,000円程度
- 老人ホームに入居……月250,000円程度
短期間で親の介護が終わる人もいれば、長期間にわたって面倒を見なければいけない人もいます。
平均すると、親の介護期間は4年程度とされています。
親の介護にかかる費用と現実、知っておくべき問題点を紹介しているので、親の介護にかかる費用について詳しく知りたい人は、こちらをご覧ください。
どれくらいの人が介護離職をしているのか
総務省統計局の調査によると、2016年10月~2017年9月の一年間で、介護・看護を理由に離職をした人は99,000人で、離職者全体の1.8%を占めています。
また、正規雇用の従業員で介護をしている人で、介護日数を見てみると、男性は「月に3日以内」が32.5%、女性は「週に6日以上」が30.7%と、最も高い数値となりました。
さらに、介護離職者の数は2007年から2017年の10年間の間に約2倍に増えており、今後もさらにその数は増加していくことが考えられます。
最も介護離職をしている年代は
年代で見てみると、介護離職をしている正規雇用者のうち、7割が40代から50代が占めています。
これは、先ほども紹介したように75歳を過ぎると急激に介護が必要な人が増加していきます。
そういう人の子どもが、ちょうど40から50代になるので、これは必然といえば必然なことかもしれません。
しかし、これが大きな問題になっています。
40代50代というと、仕事でも重要な役職についていたり、長い間働いてきた職場ではとても大切な人材として扱われていることがほとんどです。
こうした人が介護を理由に離職してしまうことは、会社としても大きな痛手となってしまいます。
また本人にとっても、今度は介護が終わったあとに、再び仕事に就くことは難しいでしょう。
介護離職は、社会的にも重要な人材をなくしてしまうことになるのです。
介護離職の原因は
厚生労働省の調査によると、介護離職の理由として最も多いのは「仕事と介護の両立が難しい職場だったため」で、59.4%となっています。
次に多いのが「介護をする家族・親族が自分しかいなかったため」が17.6%、「自分の心身の健康状態が悪化したため」が17.3%となっています。
総合してみてみると、「仕事と介護の両立が難しかったために退職した」ということがいえるでしょう。
在宅介護をしていると、肉体的にも精神的にもストレスになることが容易に考えられます。
また、施設や病院、ケアマネージャーやヘルパーからの連絡があることがあり、仕事に集中できないということも考えられます。
親の介護で離職するメリット・デメリット
親の介護で離職するメリット
介護のみに集中できる
介護離職は、仕事を辞めるということなので、それまで勤めていた仕事に対する負担がなくなります。
家では親の介護をしながら、仕事のことも考えなくてはいけません。時間になれば出勤し、帰ってきては介護のためにつきっきりです。
これでは、休む時間がありません。
仕事を辞めることによって、介護だけに集中して時間をとることができます。
もちろん、介護は肉体的にも精神的にも重労働であることには変わりありません。
しかし、仕事と両立しながら介護をすることを考えると、少しでも楽になることは間違いありません。
親との時間がしっかりとれる
仕事と介護の両方をしていると、どうしても一日のほとんどを職場で過ごすことになります。
すると、仕事に行ってる間にやらなければいけないことを、限られた時間の中でやらなければいけなくなるので、どうしても介護が事務的な作業のようになってしまいがちです。
ゆっくり話しをしたり、コミュニケーションをとる時間もほとんどないでしょう。
介護をする上で、しっかりと時間を作ってコミュニケーションをとることは、とても大切なことです。
このようなコミュニケーションが、お互いに心安らかに過ごして行く糧となるのです。
介護費用の削減になる
介護は、家族だけでなく、介護サービスを利用することもできます。
しかし、介護サービスの利用には必然的に費用がかかってきます。
仕事をやめて自分で介護をすることによって、そうした介護にかかる費用の削減をすることができます。
先にも紹介したように、介護には多くの費用がかかります。
これらの費用を削減することは、大きなメリットといえるでしょう。
また、出費を抑えることができれば、それだけで精神的な余裕も生まれてきます。
介護の費用については十分に検討するようにしましょう。
親の介護で離職するデメリット
収入源がなくなる
介護で大きく問題となるのが費用のことです。介護には予定以上の費用がかかる場合があります。
介護離職をすることによって、それまで得られていた収入源を失ってしまいます。
これにより、その後は貯金や親の年金に頼らざるを得なくなります。
もし突然、親の介護が必要になることになったとき、何の計画もなく仕事を辞めて介護に専念するようなことがあると、生活が行き着かなくなる場合もあります。
また、親の介護が終わったあとには、再び素の仕事に戻ることは難しく、そればかりか安定した仕事にも就きにくいという現状があります。
つまり、介護が終わったそれ以降も、貯金を切り崩しながら生活をしなければいけないという状況が待ち受けているかもしれません。
介護だけでなく、その後にどれくらいの費用が必要で、今自分にはどれだけの貯金があるかなどをしっかりと把握し、時間をかけて計画的に進めていく必要があるのです。
再就職が難しい
何度も書いているように、いったん仕事を辞めてしまうと、その後再び仕事に戻りたくても戻れないという現実が待っています。
それどころか、他の仕事にも正規では就くことが難しいという現状があります。
特に40代50代で、これまで苦労をかけて築き上げてきたキャリアも、言ってしまえばすべて水の泡ということになります。
安定した仕事に就くことができなければ、収入も確保することができません。
親の介護が終わったあとも、お金には苦労し続けなければいけない状況が待っているかも知れません。
精神的なダメージ
親の介護は、始まってしまうと、今度は終りが見えません。
親の介護の期間は、平均で4年といわれています。しかし、ちょうど4年で終わるわけではありません。
1年で終わる場合もあれば、5年10年と続くことも考えられます。
親の介護を始めたのはいいものの、なかなか終りが見えず、その大変さから精神的にダメージを負ってしまう人も少なくありません。
親との距離が近くなりすぎて、かえってケンカになりやすく、そこからストレスが生まれることもよくあります。
また、介護者自身にも精神的な疾患を発症してしまうケースもあります。
精神的にダメージを負ってしまうと、介護する人とされる人、共々に倒れてしまうことが考えられます。
精神面での安定には、本当に注意しなければいけません。
介護離職をする前に知っておきたい制度
介護離職をする前に、さまざまな支援制度があることを知っておきましょう。
これらの制度を活用することで、負担の軽減にもつながります。
介護休業制度
要介護状態にある対象家族を介護するための休業です。
要介護状態とは、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことです。
- 対象家族を介護する労働者が対象で、日々雇用を除く
- 事実婚を含む配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫が要介護状態にあるときに取得可能
- 取得予定日から起算して、93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと
- 介護の対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できる
また、雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たす方は、介護休業期間中に
休業開始時賃金月額の67%の介護休業給付金が支給されます。
介護休暇
要介護状態にある対象家族の介護や世話をするための休暇です。
要介護状態とは、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、
2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことです。
- 対象家族を介護する労働者が対象で、日々雇用を除く
- 事実婚を含む配偶者 、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫が要介護状態にあるときに取得可能
- 対象家族が1人の場合は、年5日まで取得できる
- 対象家族が2人以上の場合は、年10日まで取得できる
- 書面の提出に限定されておらず、口頭での申出も可能。
介護サービスの利用
親の介護と仕事の両立をしていきたいなら、介護サービスを有効に利用していきましょう。
介護サービスには、介護保険サービスと、介護保険外サービスがあります。
介護保険サービスは、介護保険の範囲内でできるサービスのことで、ヘルパーは決められた範囲の中だけで介護を行うことができます。
対して介護保険外サービスは、民間企業が行っている介護サービスです。
こちらは介護保険の範囲にとらわれることなく、広く介護サービスを行ってくれます。
24時間365日にわたって依頼をすることができるので、困ったときにはいつでも頼ることができます。
ただし、保険外ということもあるので、少し費用が高くなってしまうところが大きなデメリットとなるのではないでしょうか。
とはいえ、大切な親の介護をいつでもしてくれる上に、いつでもすぐに対応してくれることを思えば、とても安心できるサービスではないでしょうか。
介護の心配をせずに、安心して仕事に集中することができるでしょう。
ネットで簡単に申し込みをして、突然の依頼でも早ければ1時間以内で対応することができます。
介護サービスについては、介護保険外サービスでできること「介護負担」を軽減するための最善の方法でも紹介しているので、確認しておきましょう。
介護と仕事の両立
「家族の介護はできるだけ自分でしていきたい」と思うのと同時に、「仕事も続けていきたい」と考えている人も多いのではないでしょうか。
介護と仕事の両立は、正直言ってとても大変です。
しかし、コツさえつかめば十分にやっていけるでしょう。
特に注意する点は、「自分で抱え込まない」ことです。
制度や介護サービスなど、使えるものはしっかりと利用して、安心して進めていくことが大切です。
「介護離職」をする前に、介護と仕事を両立していくコツを知って、介護をしながらでも仕事を続けていくことも考えておきましょう。
介護離職で後悔しないために
紹介したように、介護離職をすることは、メリットもデメリットもあります。
しかし、それよりも大切なことは、「後悔しないこと」ではないでしょうか。
親の介護をすることで、親との時間をしっかり作り、親の最期を看取ることは、とてもすばらしいことです。
親に喜んでもらうことほどうれしいことはないでしょう。
しかし一歩間違えると、その後の自分自身の人生を棒に振る可能性もあります。
また、たとえば貯金がない状態で仕事を辞めてしまうと、自分だけでなく親も一緒になって共倒れになってしまう可能性だってないとはいいきれません。
介護離職をするのも、しないのも、どちらにしても後悔しないように、しっかりと考えるようにしましょう。