パナソニックの創業者である松下幸之助は、経営者としての実力を発揮したと同時に、次世代の育成にも力を入れました。
彼が設立した財団法人松下政経塾では、政治家を中心とした指導者が多く育てられました。
そんな松下幸之助の直弟子である上甲晃の著書『人生の合い言葉 人間力を高める70の心得 』を参考に、人間の魅力である「人間力」を引き出すための方法を紹介します。
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人間の魅力「人間力」を引き出す方法
頭の中に多くの知識を詰め込んだり、技術を身につけることは大切ですが、しかしそれはしょせん生きていく上での道具にすぎません。
「勉強」をするということは、そういうことではないのです。
どんなに高度な知識や技術を身につけても、それを使う本人に「人間としての魅力」がなければ意味がありません。
この「人間としての魅力」のことを「人間力」といいます。
松下幸之助は、頭を育てる教育ではなく、心を育て、精神を鍛えて、人間として一流となる「人間力」を高める教育こそ、今の日本に必要なことであるというのです。
やり抜く覚悟をもつ
断固としてやり抜く覚悟はあるでしょうか。覚悟がなければ人はついてきません。
とりわけ、リーダーなど人の上に立つものとしては、いつでもやり抜く覚悟は必要です。
人は頭で考えてしまうと、批判されたり否定されたりすると、そこに迷いが生じます。
しかし、腹できめたこと、腹をくくったことには、そこには貫き通す決意が生まれます。
腹で決めるためには、我を捨てなければいけません。
頭の中で考えたときには、損得勘定がはたらき、なかなか決意を固めることができません。
やり抜く為には「社会のために」「みんなのために」「世の中のために」などといった、明確な大義名分がなければいけません。
自分の損得のためには器用に立ち回ることはできても、みんなのために命をかけてものごとに取り組む人が減ってきています。
周りの目を気にせず、自分の意思を断固としてやり抜く覚悟を持ちましょう。
言われる前に気づいてやる
人に言われてやることは、どんなことでも基本的には力が入りません。
「それは自分がするのか?」「今すぐやらなければいけないのか?」「本当に必要なことか?」
そうした疑問が浮かぶのは、そもそもやる気がないことのあらわれです。
ところが不思議なことに、同じことでも自分から進んでやりたいと思い、取り組んでいくと、どんどんやる気がわいてきます。
仕事の内容が違うのではない、取り組んでいる本人の姿勢が違うのです。
言われる前に、自分で気づいて取り組むことの効果的な方法として、掃除があります。
掃除は自分で汚れたところを見つけ出すところから始まります。
自ら進んで取り組み、自らよく見渡して、気づき、きれいにしていくことで、みんなが嫌がる掃除にも一段と力がはいります。
そしてきれいになった様子を見て、達成感を感じ、その悦びが自分の自信や力に変わっていくのです。
ケチなことは考えるな
松下幸之助は、若い人たちに「自己のみの利益を計るようなケチな、狭い了見を持つな」と厳しく教えました。
自分の損得勘定ばかりしている人はケチな人です。どこからどう見ても「魅力的な人間」には見えません。
例えば薄給に嘆いているサラリーマンが、交通費の請求をごまかして実際より多く請求することはとてもいい例です。
目先の自分の損得にしか見ていないのです。これでは、たとえどんなに知識があっても仕事をする能力があっても、「人間」があるとはいいがたいでしょう。
人のためにはなにひとつ自分のものは差し出さない、そのかわり自分のためなら目の色を変えてでも前に出てくる。
そのようなケチな人にならないようにしましょう。
いつも美しくあれ
普段の立ち振る舞いから美しくあるように心がけましょう。
寒いからといってポケットに手を突っ込みながら歩くことは、まったく美しくありません。
背中が曲がり、肩をすくめ、下ばかり見ている人のどこが魅力的でしょうか。
どんなに寒くても、胸を張ってさっそうと歩く。これは人生も同じです。
どんなに困難な状況にあっても、胸をはって前を向きましょう。みすぼらしい歩き方は、みすぼらしい生き方の表れでもあるのです。
歩き姿、立ち姿、座り姿、食べ姿など、当たり前のように繰り返す動作を意識して美しくすることは、人生を美しくすることに他ならないのです。
相手を変えず自分を変える
「何度も同じことを言わせるな」と相手を責め立てたくなることがあります。
しかし、自分の思うように他人を変えることは傲慢な行いです。
特に大人は、子どもに対して自分の言うことを聞かせ、自分の思うとおりに動かし、理想的な賢い子どもに育てようと躍起になります。
何度も何度も子どもを叱り、同じことを言わせるなと怒鳴りつけ、場合によっては手を上げて暴力を振るう。
同じように後輩や部下に対しても責め立てることもあるでしょう。
しかし、どうやっても相手は自分の思うように動いてはくれません。それは他ならぬ、自分ではないからです。
これは相手が悪いのではなく、「他人を自分の思うとおりに変えようとする自分の心」が間違っているのです。
何度も何度も同じことを言っても通じない、効果がないのは、相手に非があるのではなく、自分の言い方が間違っていたり悪かったりしているからではないでしょうか。
自分が向き合うべきは自分自身です。
自分自身が魅力的な人間であり続けるために、自分自身を変えていかなければいけません。
ギブ&ギブ&ギブ
一般的には「ギブ&テイク」といって、ひとつ与えたらひとつ得るといいます。
しかし、テイク(得る)ことを始めから考えているようでは、打算的で損得勘定に左右される人間になってしまいます。
「ギブ&ギブ&ギブ」「与えて、与えて、与える」という心を持つ人に魅力が集まるのです。
見返りを求めて与える心を持つ人は、必ず人に嫌われます。「せっかく与えたのに」「恩知らず」といって、不満が出てきます。
不満のある人に魅力的な人はいません。
また、自分が与える以上に与えられていることに気づかなければいけません。
命、命を生かす空気、太陽、大地など、どれほどの宝物をタダで与えられていることでしょうか。
「与えられ、与えられ、与えられて」今の私がある。それならば、人生を通じてそのご恩を返していかなければいけないのではないでしょうか。
自ら与えられる人こそ、魅力的な人の証なのです。
人生のテーマをもつ
伝記作家の小島直記さんは、「志には三つの条件がある」といいます。
第一に、「人生のテーマを持て」
第二に、「生きる原理原則を持て」
第三に、「言行を一致しろ」
これが人間の生き様の根本に迫る三つの条件であるというのです。
「仕事のテーマ」を持っている人は多いでしょう。仕事に対して明確な目標を持ち、あるいは心念をもち、やりがいをもって仕事に取り組んでいる人がほとんどではないでしょうか。
しかし、「人生のテーマ」となると少し変わります。「人生のテーマ」は「生きるテーマ」です。生きがいそのものです。
「仕事が生きがいだ」という人もいるかもしれません。しかし、突然仕事ができなくなったらどうでしょうか。
それは仕事を失うと同時に、生きがいを失うことにもなります。
また、人生のテーマを決めておかないと、定年退職した後にもぬけの殻となり、なぜ生きているのかわからなくなってしまいます。
魅力的な人間は、人生のテーマにそって、生きがいのある生き方をしている人のことなのです。
よき習慣はよき人生をひらく
人間の魅力を引き出す方法を紹介しました。
魅力的な人間は、自ら行動できる人です。
それは、一朝一夕でできるものではありません。
毎日こつこつ努力し続けることが大切です。
そして、これらの行動を習慣化させ、いつでもどこでもできるようになってはじめてよい人生が開いてくるのです。