「終活」と聞くと、まず頭に浮かぶのがエンディングノートではないでしょうか。人生のもしもの時に備え、大切な家族に自分の想いを伝えるための、まさに「あなただけの羅針盤」となるものです。
しかし、「いざ書こう!」と思っても、何から手をつけていいのか、どんなことを書けばいいのか、迷ってしまう方も多いはず。市販のエンディングノートを手に取ってみたものの、途中で挫折してしまった…というお話もよく耳にします。
実は、エンディングノートは市販品にこだわる必要はありません。むしろ、自分で作ることで、あなたと家族にとって本当に必要な情報だけを、あなたらしい形で残せるという大きなメリットがあるんです。
この記事では、僧侶として、そして終活の専門家として、これまで多くの人生の「そのとき」に立ち会ってきた私の視点も踏まえ、エンディングノートを自分で作る方法と、盛り込むべき具体的な項目、そして後悔しないための書き方のコツをわかりやすくご紹介します。
エンディングノートって、そもそも何?
「エンディングノート」とは、もしもあなたが病気や事故で意思表示が難しくなった時、あるいは旅立った後に、家族や大切な人に「自分の想い」や「してほしいこと」を伝えるための大切なノートです。
「もしも」は、いつ、どんな形で訪れるか分かりません。突然の事態でコミュニケーションが取れなくなった時、あなたの代わりに家族に気持ちを伝えてくれるのが、このエンディングノートなのです。
また、エンディングノートを書くことは、単に情報を整理するだけではありません。これまでの人生を振り返り、残りの人生をどう生きたいか、どんな「生きがい」を持って過ごしたいかを考える、未来のためのライフプランを再設計するきっかけにもなります。
「終活」という言葉が広まるずっと前から、人生の終わりを見つめ、心を整えることの大切さを感じてきました。エンディングノートは、まさに「生きる」ことを豊かにするための、終活の第一歩と言えるでしょう。
市販品で挫折するなら「自分で作る」が断然おすすめ!
書店に行けば、様々な種類のエンディングノートが並んでいます。もちろん、それらを購入して記入していくのも良いでしょう。しかし、多くの方が途中で筆を置いてしまうという現実もあります。
その大きな理由の一つが、「全部書かなければいけない」というプレッシャーです。市販のエンディングノートは、個人情報、医療、介護、保険、財産、お葬式など、多岐にわたる項目が用意されています。これは一見親切に見えますが、今まで考えたことのない内容まで「埋めなければならない」という強迫観念を生み、書くことが苦痛になってしまうのです。
これでは本末転倒ですよね。
そこで私が強くおすすめしたいのが、自分でイチからエンディングノートを作ることです。
自分で作るメリットはたくさんあります。
- 本当に必要な情報だけを厳選できる:不要な項目は省き、家族に「今、伝えたいこと」だけに集中して書けます。
- 記入スペースも自由自在:書きたいことはいくらでも詳しく、そうでないことはシンプルに、あなたのペースで調整できます。
- 世界に一つだけのオリジナルノート:お気に入りのノートやバインダーを使って、あなたらしいデザインにすることも可能です。
- 法的拘束力がないからこそ自由:遺言とは異なり、形式にとらわれず、あなたの想いを自由に表現できます。
大切なのは、「もしも」の時に家族が迷わないよう、そしてあなたが後悔しないよう、「今」伝えたいことを率直に書き記すことです。
エンディングノートに書くべき具体的な項目
では、具体的にエンディングノートにはどんなことを書けばいいのでしょうか?先にも述べたように、すべての項目を埋める必要はありません。あなたが家族に「今」伝えたいこと、必要な情報だけを選んで書きましょう。
どんなノートでも構いません。好きなように自由に書き始めてみてください。
自分のこと
まずは、基本的な自分の情報を整理しておきましょう。
- 名前、生年月日、血液型
- 住所、本籍、電話番号、メールアドレス
- 勤務先
デジタル情報
現代社会において、デジタル情報は非常に重要です。SNSのアカウントやパスワード、仕事関連のデータなど、あなたがどんなデジタル資産を持っているか、そしてそれをどう扱ってほしいかを明確にしておきましょう。これをデジタル終活と呼びます。
- 仕事とプライベートのデータの仕分け(不要なデータの整理を含む)
- 利用しているソフトやアプリ、SNSアカウント
- ログインID、パスワード
- これらの情報を家族に見られても良いか、見られたくない場合は業者や信頼できる人への削除依頼の有無
デジタル終活は「今すぐ」取り組むべきことです。詳細はこちらの記事も参考にしてください。
【デジタル終活とは】スマホやパソコンの情報整理のコツを紹介!
医療
もしもの時、あなたの身体に何が起こっているか、どんな治療を望むかなど、医療に関する意思を伝えておくことは非常に重要です。
- 身長、体重、血液型、アレルギー
- 健康保険証、後期高齢者医療被保険者証の情報
- かかりつけ医、これまでにかかった大きな病気
- 余命など病気の告知について(知りたいか、知りたくないか)
- 延命治療の希望(希望する、希望しない、緩和ケアを希望するなど具体的に)
- 臓器提供の意思
- すべて家族の判断に任せる
突然の病気で意識が朦朧としてしまうこともあります。あなたの意思が最大限に尊重されるよう、元気なうちに具体的に記しておくことが大切です。
介護
将来、介護が必要になった時に、どんな生活を望むかを具体的に示しておくことで、家族の負担を減らし、あなた自身も前向きに過ごせるはずです。
- 在宅介護を希望するか、施設での介護を希望するか
- 在宅介護の場合:現在の自宅か、子どもの家か
- 施設介護の場合:希望する施設があればその名称
- 介護費用について(自分の貯金や年金で賄ってほしいか、家族にお願いするか、使用する通帳など)
- 要介護になった場合の財産管理について
- すべて家族の判断に任せる
葬儀
葬儀は、故人を送るための大切な儀式ですが、残された家族が執り行うものです。あなたの希望を伝えることはもちろん大切ですが、家族としっかり話し合い、遺族の気持ちにも寄り添うことが何よりも重要です。
- 葬儀の形式(一般葬、家族葬、直葬など)
- 葬儀の際の宗教、菩提寺などの連絡先
- 希望する会場、お墓
- すべて家族に任せる
大切な人を亡くして悲しみに暮れる中で、慌ただしく準備を進めるのは大変なことです。だからこそ、事前に家族とよく話し合い、お互いの希望をすり合わせておくことが、後悔のないお見送りにつながります。
保険
生命保険の請求には期限があります。家族がスムーズに手続きできるよう、情報を整理して残しておきましょう。火災保険や地震保険など、加入している保険があればすべて記載しておくと安心です。
- 保険会社名
- 保険証券番号
- 保証内容
- 受取人
年金
年金情報も、家族が手続きする際に必要となります。
- 基礎年金番号
- 年金証書番号
- 年金受け取りの銀行口座
- 公的年金、企業年金、個人年金など、すべての情報を残しましょう。
財産
財産を明確にすることは、将来の予算把握だけでなく、相続に関する考えをまとめる機会にもなります。ただし、非常に重要な個人情報ですので、取り扱いには十分注意してください。
- 預貯金の口座(銀行名、支店名、口座番号)
- 株式や投資信託の情報
- 不動産の情報
- クレジットカード情報
- 借入金や負債の有無
相続手続きは複雑で時間がかかることが多いため、できるだけ詳細な情報を記録しておくことが、家族の負担を軽減します。
人間関係
あなたの「もしも」の時に、家族が連絡すべき人や、知っておいてほしい人間関係をまとめておきましょう。家系図を作成するのもおすすめです。
- 配偶者、子、孫
- 父母、祖父母、兄弟
- 仕事関係者
- 友人、知人
- 困った時や何かあった時に連絡してほしい人
メッセージ
エンディングノートの大きな役割の一つが、家族へのメッセージです。
突然コミュニケーションが取れなくなった時、あなたの想いを代わりに伝えてくれるのがこのノートです。自由に、好きなように、伝えたいだけ、家族への感謝や愛情、これからのことなど、心ゆくまでメッセージを書き綴りましょう。
その他、自由に書きたいこと
エンディングノートは、あなたの人生を映し出す鏡のようなものです。形式にとらわれず、あなたの個性を表現する場として活用してください。
- これまでの生い立ち、思い出に残る出来事(嬉しかったこと、楽しかったこと、悲しかったこと、苦しかったこと)
- これからの人生でやりたいこと、行きたい場所
- 大切にしているものやコレクションについて
- 自分の座右の銘や好きな言葉
「死」を見つめることは、「生きる」ことを見つめ直すことです。エンディングノートを通じて、あなたの人生をより豊かに、そして後悔なく生きるためのきっかけにしてください。
後悔しない!エンディングノート作成の3つのコツ
エンディングノートを書く上で、いくつか知っておいていただきたい注意点があります。これらを理解しておくことで、より効果的に、そして安心してエンディングノートを活用できるでしょう。
1.法的な拘束力はない
エンディングノートは、遺言書とは異なり法的な拘束力はありません。例えば、「この財産を〇〇に譲りたい」と書いても、それが必ず執行されるわけではありません。相続など法的な手続きが必要なことに関しては、きちんと弁護士などの専門家に相談し、遺言書を作成することをおすすめします。
しかし、法的拘束力がないからこそ、エンディングノートには自由があります。遺言書に書くほどではないけれど、家族に伝えておきたい大切な写真の保管場所や、コレクションの扱い方、趣味のことなど、あなたのパーソナルな想いを自由に記すことができるのです。
2.書いたら家族に伝える
せっかくエンディングノートを書いても、家族にその存在が知られていなければ意味がありません。
ノートの内容をすべて話す必要はありませんが、「エンディングノートを書いたこと」「どこに保管しているか」は、必ず家族に伝えておきましょう。あなたの気持ちを代理で伝えてくれる大切なノートが、その役割をしっかりと果たせるように、このひと手間を惜しまないでください。
3.定期的に見直す
エンディングノートは、一度書いたら終わりではありません。あなたの「今」の気持ちを書き記すものですから、人生のステージが変わったり、価値観が変わったりすれば、内容も変化していくのが自然です。
定期的に見直し、必要に応じて加筆修正していくことが大切です。半年ごと、あるいは年に一度など、自分なりの見直しのタイミングを決めておくと良いでしょう。その時のあなたの正直な気持ちを反映させることで、エンディングノートは常にあなたと家族にとって最適な羅針盤であり続けます。
まとめ
エンディングノートを自分で作る方法と、具体的な項目、そして失敗しないためのコツをご紹介しました。
終活を始めるのに「早すぎる」ということはありません。私がこれまで見てきた多くの「そのとき」は、時に予期せぬ形で訪れます。だからこそ、思い立った「今」から始めることが大切です。
市販のエンディングノートも便利ですが、時に「全部書かなければ」というプレッシャーから、途中で挫折してしまうこともあります。自分で一から作るエンディングノートは、あなたが本当に家族に伝えたいことだけに集中でき、さらに自由にデザインする楽しさもあります。
あなたの想いを詰め込んだ、世界に一つだけのオリジナルエンディングノート。それは、残される家族への最大のプレゼントであり、あなた自身が後悔なく、より豊かな人生を送るための道しるべとなるはずです。