聖徳太子が著した「三経義疏」である『法華経義疏』『維摩経義疏』『勝鬘経義疏』
その中の『勝鬘経義疏』は、『勝鬘経』というお経を解説したものです。
ところで、『勝鬘経』とはどんなお経なのでしょうか。
簡単に解説します。
また、ほかの経典も紹介しているので、合わせてご覧ください。
『勝鬘経』の教え
『勝鬘経』は、「勝鬘」という女性信者が主人公のお経です。
正式には『勝鬘師子吼一乗大方便方広経』といい、「勝鬘夫人が獅子の吠えるが如く偉大な教えを説いた経」という意味があります。
経典といえば多くの場合、仏弟子や信者が釈迦に対して質問を投げかけ、それに対して釈迦が答えることによって教えを伝えていくという構成になっています。
ところがこの経典は、勝鬘という女性がほぼひとりで話しを進め、釈迦がそれを称賛するという構成になっているところに特徴があります。
『勝鬘経』の歴史
サンスクリット語原典は断片的に存在するのみで、二種類の漢訳とチベット語訳があります。
中国や日本で親しまれているお経で、聖徳太子は「三経義疏」である『法華経義疏』『維摩経義疏』とならんで『勝鬘経義疏』を著し、この経典を注釈しました。
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『法華経』に説かれている一乗思想を受け継ぎ、如来蔵思想を説いた教典として重要視されています。
一乗思想とは、『法華経』の教えによってすべての人々は平等に救われるという教えのこと。
如来蔵思想とは、すべての人々は生まれながらにして仏になる可能性を持っているということです。
人々は煩悩にまとわれて、それに惑わされ、苦しみながら生きています。しかし、その本質には清浄無垢な仏の心を備えているというのです。
その本質を顕して仏となるように努める道が『法華経』であり、外ならぬ『法華経』の一乗によって救われると考えられているのです。
勝鬘夫人が説く仏教の教え
コーサラ国の波斯匿王と末利王妃の間に生まれたのが勝鬘という娘です。
勝鬘は両親の勧めで仏の教えに帰依をしました。そして、10の誓いからなる「十大受」を立てました。これは仏道に入門するときの受戒にあたるものです。
さらに勝鬘は、仏の説く正しき教えを理解し、理解した教えを説き広め、その教えを護持するためには自分の身をかえりみない、という「三大願」を立てます。
これをきいた釈迦は、菩薩の求める願いも、すべてこの三大願におさめれていると語ります。
そして次第に焦点が絞られていき、あらゆる願は真実の教えを受け入れて「摂受正法」という一大願に含まれると、勝鬘は説きました。
摂受正法は、菩薩が行う六波羅蜜の実践行に他ならないとして、その内容が具体的に説かれています。この一大願の教説が、如来蔵思想とともに『勝鬘経』の中心のテーマとなっています。
『勝鬘経』では、真実の教えを身につけることの意義を説き、真実の教えとは大乗の教えであり、大乗こそが唯一の真理であり、それを具現する仏こそがすべてのものが帰依すべきところである。
さらに、大乗の教えを極めて悟りを得ることは、もともと備わっている如来蔵のはたらきであり、如来蔵を信じることが大乗への発願の因子であると説いているのです。
十大受・三大願・一大願
十大願
- 戒律を守る
- 目上の人を敬う
- 怒りや憎しみの心をもたない
- 他人をうらやまない
- 物惜しみをしない
- 財物はすべて弱いものを救うために使う
- 他人の幸福の為に真心をつくす
- 苦しみにあえぐ者を見れば必ず救う
- 戒律に背く者を見過ごさない
- 正法を身につけて決して忘れない
三大願
- 正法を理解する
- 理解した正法をすべての人々に説く
- 正法を護持するためには身命を惜しまない
一大願
- 摂受正法(正法を身につける)
女性の活躍、女性の蔑視
大乗経典には、女性のままでは浄土に往生できないとか、男性に形を変えてはじめて往生できるとかいうことがよく説かれています。
それは明らかに、当時の時代背景の反映であり、女性蔑視、女性差別の考え方です。
しかし『勝鬘経』には、それらの文言がまったくみられません。そこにこの経典の深い意味を感じます。
『勝鬘経』が成立し、主人公の勝鬘という女性が大きく活躍することによって、世の中の女性にも大きな希望を与えたことでしょう。
最後に
『勝鬘経』について紹介しました。
主人公の勝鬘は女性であり、しかも在家の信者でありながら、仏の教えを説き広めました。
その内容は『法華経』に説く一乗思想と如来蔵思想を受け継いで、摂受正法によってすべての人が救われるというものです。
また、女性が活躍する経典であることにも、大きな意味があるでしょう。